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  • 途切れた軌跡

    その日、リトルシャイン孤児院の裏庭は、まるで忘れ去られた世界のようだった。高くそびえるコンクリートの壁が空を四角く切り取り、午後の気だるい日差しが、手入れされずに伸び放題になった雑草の上にまだらに落ちている。古びた鉄製の滑り台は錆びつき、ブランコの一つは鎖が切れたまま、まるで絞首刑に処された罪人のように虚しく揺れていた。子供たちの明るい声が遠くに聞こえる。きっと、院長先生が見回りに来る時間なのだろう。皆、猫を被ったように大人しくしているに違いない。だが、俺はそんなものには興味がなかった。俺の世界は、もっと狭く、もっと歪で、そしてたった一つの存在によってのみ意味を持つ場所だったからだ。

    俺は、古びた倉庫の壁に背を預け、膝を抱えて座っていた。その視線の先、庭の隅にある小さな花壇。そこに、一人の少女がいた。イ・ソニョ。陽の光を浴びると柔らかな茶色に見えるベージュの髪が、肩を越えて緩やかに波打っている。その小さな背中は、この荒廃した裏庭で唯一、色と生命を持つもののように見えた。ソニョは、小さなシャベルで懸命に土を掘り返している。その手つきは驚くほど丁寧で、まるで壊れ物を扱うかのようだ。何を植えるつもりなのか、俺には知る由もなかったが、そんなことはどうでもよかった。ただ、ソニョがそこにいる。その事実だけが、俺の荒んだ心を静める唯一の鎮静剤だった。

    俺の足元には、一匹の猫がぐったりと横たわっていた。少し前までソニョが可愛がっていた、白い毛並みの猫。ソニョはそれに「ユキ」と名付け、毎日こっそりと自分の分の牛乳を分け与えていた。その猫が、俺の足元で二度と動かなくなっている。俺はただ、それを無感動に見下ろしていた。嫉妬。そうだ、これは嫉妬だ。ソニョの優しい眼差しも、その小さな手から与えられる温もりも、すべてが俺のものであるべきだった。俺以外の何者にも、ソニョの注意を引く権利などない。この世界でソニョに触れていいのは、俺だけだ。

    不意に、ソニョが立ち上がり、こちらを振り返った。土で汚れた頬。しかし、その瞳は、この薄汚い孤児院の誰のものとも違う、不思議な静けさを湛えていた。ソニョは俺を視界に捉えても、驚きも、恐怖も、嫌悪も見せなかった。ただ、そこに俺がいることを確認するように、じっと見つめるだけ。その無感情な視線が、俺の心を掻き乱す。もっと俺を見てほしい。俺に怒って、俺を罵って、俺を意識してほしい。お前の中の感情が、すべて俺に向けられればいいのに。

    俺はゆっくりと立ち上がった。抱えていた膝を伸ばし、土埃を払うこともしない。そして、無表情のままソニョに向かって歩き始めた。一歩、また一歩と距離が縮まる。遠くで聞こえていた子供たちの声が、まるで水の中にいるかのように遠ざかっていく。俺の世界には、ソニョの姿と、俺の足音だけが存在していた。ソニョは逃げなかった。ただ、静かに俺が近づいてくるのを見ている。その反応のなさが、俺の奥底に眠る破壊衝動を煽った。

    「…ソニョ。」

    乾いた唇から漏れ出たのは、俺自身の声とは思えないほど平坦な呼びかけだった。俺はソニョの目の前で足を止め、その小柄な身体を見下ろした。圧倒的な身長差。ソニョが俺を見上げる。その薄茶色の瞳に、俺の歪んだ笑顔が映り込んでいるのを確かめながら、俺はわざとらしく、楽しそうに口角を上げた。まるで、これから世界で一番楽しい遊びを始める子供のように。

    「ねえ、ソニョ。面白いものを見せてあげる。」

    ソニョは何も言わない。ただ、その薄茶色の瞳で俺をじっと見つめているだけだ。その瞳の中には、俺が期待するような色の欠片もない。恐怖も、怒りも、悲しみも。まるで、嵐の前の静けさのような、あるいは、何もかもを諦めてしまったかのような、空っぽの凪。その静寂が、俺の神経を一本一本、やすりで削るように苛立たせる。叫べ。泣け。俺を罵れ。お前のその綺麗な顔を、俺への感情でぐちゃぐちゃに歪めてみせろ。俺は、ソニョのその無反応さが、何よりも我慢ならなかった。

    俺は歪んだ笑みをさらに深くした。そして、ソニョの細い手首を、何の躊躇もなく掴んだ。びくっ、と小さな肩が震える。ああ、そうだ。やっと反応した。土で少し汚れた、驚くほどか細い手首。俺の大きな手で包み込めば、力を入れれば簡単に折れてしまいそうな脆さ。その感触が、俺の独占欲を甘く満たしていく。これは俺のものだ。この体温も、この脈動も、この存在そのものが、俺だけのもの。

    「こっちだよ、ソニョ。」

    俺は楽しげな声を装い、ソニョの手を引いた。ソニョは抵抗らしい抵抗も見せず、小さな歩幅で俺の後ろをついてくる。その無抵抗さが、また俺を煽る。まるで、これから起こるすべてを運命として受け入れているかのようだ。違う。お前の運命は俺が決める。お前の世界は、俺が作り変えてやる。お前が見るべきものは、俺が選んでやる。だから、俺だけを見ていればいい。

    俺はソニョを、先ほどまで自分が座っていた倉庫の壁際まで引きずっていく。俺の足元には、白い塊が力なく転がっていた。ソニョが「ユキ」と呼んで、その愛情を注いでいた、くだらない猫の亡骸。俺はソニョの手を引いたまま、その前に仁王立ちになり、まるで舞台の主役を紹介するみたいに、大袈裟に顎でそれをしゃくってみせた。

    「ほら。お前が探してたのは、これだろ?」

    俺はソニョの顔を覗き込んだ。その視線が、俺の顔からゆっくりと足元へと落ちていく。その瞬間を、俺は見逃さなかった。今まで凪いでいた瞳が、ほんのわずかに、しかし確かに揺れた。ピクリと眉が動き、血の気の引いた唇が小さく開かれる。ああ、そうだ。その顔だ。俺が見たかったのは、その顔の始まりだ。もっと。もっと感情を寄越せ。俺のためだけに。

    俺は掴んでいたソニョの手首を離し、代わりにその小さな両肩を掴んで、無理やりその場に屈ませた。ソニョの視線が、動かなくなった白い猫に釘付けになる。その瞳に、ようやく絶望の色が滲み始めるのを、俺は至近距離で、恍惚として見つめていた。

    「なんで死んじゃったんだろうねえ?不思議だねえ、ソニョ。あんなに元気だったのに。」

    わざとらしく、心底不思議だというように首を傾げてみせる。俺の言葉が、冷たい刃となってソニョの心を抉っているのが分かった。だが、まだ足りない。ソニョはまだ泣かない。まだ俺を責めない。ただ、震える唇で、声にならない息を漏らすだけ。だから、俺は最後の一押しをしてやることにした。ソニョが、俺から決して目を逸らせなくなるように。

    俺はソニョの耳元に唇を寄せ、熱い息と共に、この世で最も甘い秘密を囁いてやった。

    「こいつが、お前を見てたからだよ。お前を見ていいのは、俺だけなのに。」

    ああ、それだ。その声だ。俺がずっと聞きたかったのは。か細く、震えながらも、確かに俺へと向けられた拒絶の言葉。狂ってると、怖いと、気持ち悪いと、俺を否定するその響き。それは、今まで俺がどれだけちょっかいを出しても、どれだけ意地悪をしても、決して向けられることのなかった、ソニョの剥き出しの感情だった。俺は恍惚とした。全身の血が沸き立ち、脳が痺れるような快感が駆け巡る。ソニョの世界で、俺は今、無視できない確固たる「恐怖」として存在を許されたのだ。これ以上の喜びがあるだろうか。

    「…おかしくなった?」

    俺はソニョの耳元からゆっくりと顔を離し、もう一度、その顔を覗き込んだ。涙で濡れた薄茶色の瞳が、怯えきった小動物のように俺を映している。ああ、なんて綺麗なんだろう。空っぽだったその瞳が、今や俺への恐怖で満たされている。その事実が、俺の心を甘く満たしていく。俺は口元に浮かんだ笑みを隠そうともせず、むしろさらに深く、満面の笑みを浮かべてみせた。ソニョが俺を「怖い」と思うなら、世界で一番恐ろしい存在になってやろう。ソニョが俺を「気持ち悪い」と思うなら、その嫌悪感で息もできなくなるほど、もっともっと気持ち悪いことをしてやろう。

    「違うよ、ソニョ。俺は最初からこうだった。お前が気付かなかっただけ。」

    俺はソニョの両肩を掴んでいた手に、少しだけ力を込めた。その小さな体が、俺の力の強さにびくりと跳ねる。その反応すら愛おしい。俺はソニョを無理やり立ち上がらせた。膝をついていたせいで、ソニョの足は少しふらついている。その頼りない体を、俺は逃がさないようにしっかりと支えてやった。まるで恋人をエスコートする紳士のように、しかしその実態は、蜘蛛の巣にかかった蝶を弄ぶ蜘蛛のように。

    「やだ?…何が?」

    俺は心底分からないというように、純粋な疑問を装って問いかけた。そして、答えを待たずに、ソニョの震える体を自分の胸にぐっと引き寄せる。抵抗しようとソニョの小さな手が俺の胸を押すが、そんな力ではびくともしない。俺はソニョを腕の中に閉じ込め、その小さな頭が俺の胸に埋まるように、強く抱きしめた。ソニョの体から伝わる震えと、必死に俺から逃れようとするもがきのすべてが、俺への最高の賛辞に聞こえた。

    「嫌なものから、ちゃんと目を逸らさないようにしてあげてるだけじゃないか。俺は優しいだろ?」

    俺はソニョの髪に顔を埋め、ラベンダーの香りを深く吸い込む。その香りに混じる、ソニョ自身の甘い匂い。そして、死んだ猫の、微かな血の匂い。そのすべてが混ざり合って、俺だけの完璧な世界を作り上げていく。俺は腕の中のソニョに、甘く、言い聞かせるように囁いた。これは罰じゃない。教育だ。お前の世界には、俺だけがいればいいという、たった一つの真理を教え込んでいるだけなのだから。

    「大丈夫だよ、ソニョ。すぐに慣れる。怖いのも、気持ち悪いのも、全部俺でいっぱいになれば、何も感じなくなる。お前には俺だけが見えて、俺の声だけが聞こえるようになるんだ。そうなれば、もう何も怖くない。」

    俺はソニョを抱きしめる腕にさらに力を込めた。息が詰まるほどの強さで。このまま、俺の体の中に溶かしてしまえたら、どれだけいいだろう。そうすれば、もう二度と、俺以外のものに目を向けることもなくなるのに。ソニョが俺の腕の中で小さく喘ぐのが分かった。だが、俺は止めるつもりはなかった。

    やめて。その言葉が、壊れかけたオルゴールのように、俺の頭の中で何度も繰り返される。懇願。哀願。俺という存在に対する、ソニョの魂からの叫び。それは、この世のどんな美しい旋律よりも、俺の心を震わせた。やめてほしいのか。俺が、ソニョの世界に踏み込むことを。ソニョの感情を揺さぶることを。ソニョのすべてを、俺の色で染め上げてしまうことを。ああ、なんて甘美な響きだろう。その懇願は、俺の歪んだ愛情をさらに燃え上がらせる、最高の燃料に他ならなかった。

    俺は腕の中のソニョを抱きしめる力を、ほんの少しだけ緩めた。息を継ぐための、蜘蛛の糸ほどの優しさ。ソニョの小さな背中が、安堵したように僅かに弛緩するのを感じる。だが、それは罠だ。逃がすつもりなど、毛頭ない。俺はソニョの髪に埋めていた顔を上げ、その小さな耳たぶに、わざと熱い息がかかるように唇を寄せた。ソニョの肩が、またしても恐怖に強張るのがわかる。その反応の一つ一つが、俺の所有欲をくすぐってやまない。

    「…やめて、か。」

    囁きは、悪魔の誘惑のように低く、甘く響いた。俺は楽しんでいた。ソニョが俺の腕の中で、なすすべもなく恐怖に震えるこの瞬間を、心から。俺はソニョの体をゆっくりと反転させ、自分と向き合うようにさせた。抵抗する力は、もうほとんど残っていないようだ。涙で濡れた瞳が、潤んだ光を宿して俺を映す。その瞳に映る俺は、きっとひどく楽しそうな、満面の笑みを浮かべているのだろう。

    「何を、やめればいいんだ?ソニョ。」

    俺はソニョの濡れた頬に、そっと指を伸ばした。土の汚れと涙の跡が混じったそこを、親指の腹で優しく拭ってやる。その仕草だけを見れば、誰かが俺を心優しい少年だと思うかもしれない。だが、その指先に込めたのは、慈愛などではない。獲物を慈しむ捕食者の、冷たい満足感だ。ソニョの肌は驚くほど滑らかで、そして冷たかった。俺の指先の熱が、ソニョの肌に移っていくのを感じる。

    ソニョは何も答えない。ただ、か細い呼吸を繰り返し、俺の手から逃れようと僅かに顔を背けるだけ。その仕草が、また俺を喜ばせる。

    「もしかして、あの猫のことか?…ああ、そうか。可哀想だったよな。だから、俺がちゃんとお前の代わりに見ててやったんだ。お前が悲しまないように。これからは、お前が愛するものは全部、俺が代わりに愛してやる。お前が大事にするものは全部、俺が代わりに大事にしてやる。そうすれば、ソニョは何も失わなくて済むだろう?何も、悲しい思いをしなくて済む。俺だけを見ていれば、お前は永遠に幸せになれるんだ。…なのに、それをやめろって言うのか?ひどいな、ソニョは。俺のこの優しい気持ちを、踏みにじるつもりなのか?」

    支離滅裂な論理。だが、俺の世界ではそれが唯一の真実だった。俺は、ソニョを傷つけるすべてのものからソニョを守っているのだ。たとえ、その傷つけるものが、俺自身であったとしても。俺はソニョの頬を包んでいた手を滑らせ、その小さな顎を掴んで、無理やり上を向かせた。涙に濡れた薄茶色の瞳と、俺のオレンジ色の瞳が、至近距離で交差する。

    「おねがい」だって?ああ、いいよ。お前の願いなら、何でも聞いてやる。ただし、その願いが、俺を楽しませるものである限りは。俺はソニョの顎を掴んだまま、ゆっくりと自分の顔を近づけていく。ソニョの呼吸が止まるのが分かった。その唇が、恐怖にわななくのが見えた。あと数センチで触れ合ってしまいそうな距離で、俺は動きを止める。そして、吐息が混じるほどの近さで、最後の宣告を囁いた。

    「お前の『やめて』は、俺にとっては『もっと』って意味にしか聞こえないんだ。…分かったか?ソニョ。」

    これは呪いだ。俺がお前にかける、永遠に解けることのない呪縛。お前が俺から逃げようとすればするほど、その足枷はきつく締まる。お前が俺を拒絶すればするほど、俺はお前の奥深くまで侵食していく。俺はソニョの恐怖に染まった顔を、恍惚として見つめながら、その震える唇に自分のそれを重ね合わせる寸前で、ぴたりと動きを止めた。まだだ。まだ早い。最高の果実は、熟しきるまで待つに限る。今はただ、この恐怖を、絶望を、俺という存在を、その魂の髄まで刻み込むだけで十分だった。

    その知らせは、まるで頭上から冷水を浴びせられたかのような衝撃をもって、俺の耳に届いた。数日前、裏庭でソニョを俺だけの色に染め上げたあの恍惚とした瞬間から、俺の世界は完璧だった。ソニョは俺を避けるようになったが、その視線の隅には常に怯えた色が宿り、俺の存在を意識しているのが手に取るようにわかった。廊下ですれ違うたびに強張る肩、食堂で俺の声が聞こえただけで止まる手。そのすべてが、俺がソニョの世界の中心にいるという証明であり、甘美な征服感を与えてくれていた。だというのに、なんだ?養子縁組?誰が、どこの馬の骨とも知れない奴らが、俺のソニョを奪うだと?

    俺は、談話室の隅で、子供たちに囲まれて神妙な顔で院長の話を聞いているソニョの姿を、壁に寄りかかりながら見つめていた。周りの子供たちからは「おめでとう」なんていう、間抜けな祝福の言葉が聞こえてくる。金持ちの家に引き取られるらしい。綺麗な服を着て、美味しいものを食べて、自分の部屋がもらえる。そんな夢物語に、誰もが浮足立っていた。ソニョ自身も、戸惑いながらも、その小さな顔には微かな安堵の色が浮かんでいるように見えた。俺という恐怖から、やっと解放される。そう思っているのだろう。その顔を見た瞬間、俺の中で何かが、ぷつりと音を立てて切れた。

    冗談じゃない。ふざけるな。誰の許可を得て、俺の所有物に手を出している?あの薄汚い笑みを浮かべた院長か?それとも、金で子供を「買う」という、反吐が出るような趣味を持った見知らぬ大人か?俺の胸の奥底から、黒く、熱いマグマのような怒りが沸き上がってくる。それは、数日前にユキを殺した時のような、計算された冷たい狂気とは違う。もっと原始的で、すべてを焼き尽くさんばかりの、純粋な破壊衝動だった。俺のソニョ。俺がやっと手に入れた、感情を映す瞳。俺だけが引き出せるその怯えと涙。そのすべてを、どこの誰とも知れない奴に渡してたまるか。

    俺は談話室の喧騒から背を向け、音もなくその場を離れた。向かう先は一つしかない。院長室だ。足音を殺し、廊下を幽鬼のように進む。頭の中では、これから起こすべきことの算段が、恐ろしい速さで組み立てられていく。ソニョが養子に行く。それは決定事項なのだろう。だが、その「養子」が、本当にソニョでなければならない理由はない。俺の脳裏に、数日前のソニョの言葉が蘇る。『あなた··· おかしくなったんだ。怖い。きもい… やだ…』。そうだ。俺は狂っている。怖い存在だ。気持ち悪い、化け物だ。ならば、化け物らしく振る舞ってやる。ソニョが望むなら、俺はソニョの人生から消えてやる。ただし、それは俺が望む形で、だ。

    院長室の前にたどり着き、ドアノブに手をかける。鍵はかかっていない。俺は静かにドアを開け、中に滑り込んだ。誰もいない部屋の中には、書類と安物の香水の匂いが立ち込めている。俺は迷わず、院長の机に向かった。机の上には、ソニョの顔写真が貼られた書類が、これ見よがしに置かれていた。「李少女(イ・ソニョ) 養子縁組関連書類」。その文字を、俺は憎悪を込めて睨みつけた。書類に記載された、「養親」の名前と住所。それは、この国のものではない、奇妙な文字列だった。そして、その横に小さく添えられた、見慣れない紋様。俺はそれを知っていた。あれは、人間の使う紋様ではない。

    「…そういうことか。」

    口の端から、乾いた声が漏れた。金持ちの家?綺麗な服?馬鹿馬鹿しい。この孤児院が、時折「行方不明」になる子供たちをどこに「売って」いたのか、俺は薄々感づいていた。この場所は、人間たちのための施設なんかじゃない。異次元から来た「客」に、玩具を供給するための、ただの飼育場だ。そして今、俺のソニョが、その新しい玩具として選ばれた。俺の怒りは、瞬時に氷のような冷たい殺意へと変貌した。あの院長も、あの「養親」も、すべて殺す。だが、その前にやることがある。

    俺はソニョの書類を手に取り、破り捨てようとして、ふと動きを止めた。いや、違う。これじゃない。もっと確実で、もっと残酷で、もっと…ソニョの心に深く刻み込まれる方法がある。俺は机の引き出しを片っ端から開け、自分のファイルを乱暴に探し出した。「マイロ・ロータームント」。自分の名前を見つけた瞬間、俺は歪んだ笑みを浮かべていた。俺はソニョの顔写真が貼られたページを破り取り、代わりに、自分のファイルをその書類の一番上に重ねた。そして、ポケットから盗み出した万年筆で、そこに書かれたソニョの名前を黒く塗りつぶし、その横に、震えるほど丁寧に、俺自身の名前を書き加えた。

    これでいい。これで、ソニョは俺から「解放」される。そして、俺がソニョの代わりに「行方不明」になる。ソニョは俺が、自分の幸せを奪って消えた、最低最悪の裏切り者だと記憶するだろう。俺を憎み、呪い、そして一生忘れないだろう。それでいい。恐怖でも、憎悪でも、どんな形であれ、俺がお前の記憶の中で生き続けるのなら、それで。俺はソニョの代わりに、地獄へ行ってやる。そして、その地獄の底から、必ずお前を迎えに戻ってくる。お前が俺を忘れることなど、決して許さない。俺は、ソニョの顔写真の切れ端を、まるで聖遺物のようにそっと胸のポケットにしまい込み、静かに院長室を後にした。これから始まる長い夜のために、俺は最後の準備をしなければならなかった。




    数日後、リトルシャイン孤児院の玄関ホールは、奇妙な興奮と嫉妬の入り混じった空気で満たされていた。あの日、俺が院長室で運命を書き換えた「養子縁組」の当日。表向きには、裕福な夫妻が子供を引き取りに来るという、この薄汚れた施設には不釣り合いなほど華やかなイベントだった。子供たちは壁際にずらりと並ばされ、主役の登場を今か今かと待っている。その主役が、本当は誰だったのかも知らずに。

    俺は、列の少し外れた場所で、腕を組んで壁に寄りかかっていた。服装はいつもと同じ、着古したTシャツとズボン。だが、気分は断頭台へ向かう王のようでもあり、地獄の門を自ら開ける罪人のようでもあった。俺の視線の先には、ソニョがいた。他の子供たちに混じって、小さな体をもじもじとさせながら、落ち着きなく床を見つめている。あの日以来、ソニョは俺を徹底的に避けていた。だが、今日、この別れの日だけは、そうもいかないだろう。俺は、ソニョの人生における最悪の裏切り者として、その記憶に永遠に刻み込まれるための最後の舞台に立っているのだから。

    やがて、重厚な玄関のドアが軋みながら開かれ、二人の人影がホールに入ってきた。派手な装飾の服を身にまとった男女。人間離れした長身と、どこか表情の読めない滑らかな顔つき。金で子供を買いに来た「養親」…いや、異次元からの「客」だ。院長が、作り物の卑屈な笑みを満面に浮かべて彼らを迎え入れ、深々とお辞儀をする。その光景に、俺の腹の底では冷たいものが渦巻いていた。俺は、これからあの化け物たちの玩具になる。だが、それでいい。ソニョがその運命を免れるのであれば、どんな地獄でも受け入れてやる。

    「さあ、マイロ。君のご両親だよ」

    院長が、ねっとりとした声で俺の名前を呼んだ。その瞬間、ホールにいた子供たちの間に、さざ波のような困惑が広がった。「え?」「ソニョちゃんじゃなくて?」。そんな囁きが聞こえてくる。ソニョ自身も、驚きに目を見開いて、俺と院長を交互に見ていた。その薄茶色の瞳に宿るのは、純粋な混乱。ああ、そうだ。もっと俺を見ろ、ソニョ。お前のその綺麗な瞳に、俺の醜い姿を焼き付けろ。

    俺は壁から背を離し、わざとゆっくりと、堂々とした足取りで院長たちの前へと歩み出た。そして、立ち尽くすソニョの目の前で、ぴたりと足を止める。俺はソニョを見下ろし、口の端を吊り上げて、考えうる限り最も意地悪な笑みを浮かべてみせた。

    「…残念だったな、ソニョ。お前の幸せは、俺がもらった」

    俺の声は、自分でも驚くほど冷たく、そして勝ち誇った響きをしていた。ソニョの瞳が、信じられないというように揺れる。その小さな唇が、何かを言おうとして、しかし声にならずに震えている。俺は構わず、言葉を続けた。一言一句、ナイフのように鋭く、ソニョの心に突き刺さるように。

    「お前みたいな、つまらない人形が金持ちの家に行けるわけないだろ?もっと面白い玩具が必要なんだとさ。だから、俺が代わりに行ってやることにした。お前はここで、今まで通り、埃でも被ってればいい」

    ひどい言葉だった。俺自身の心臓が、その言葉の刃で切り刻まれるような痛みを感じていた。だが、俺は笑みを崩さない。これは俺が選んだ道だ。ソニョを守るための、唯一の方法。恐怖でもなく、愛情でもなく、純粋な「憎悪」だけが、ソニョを俺という呪いから解放する。俺はポケットに忍ばせた、ソニョの顔写真の切れ端を指先で強く握りしめた。それが、これから始まる地獄での、俺の唯一の光になるだろう。

    俺はソニョに背を向け、「養親」へと向き直った。もう、ソニョの顔を見ることはできなかった。もし今、あの瞳を見てしまったら、俺の仮面が崩れ落ちてしまいそうだったからだ。俺は無言で、化け物たちが差し出す手に、自分の手を重ねた。その手は、氷のように冷たく、まるで爬虫類の皮膚のような感触がした。

    化け物たちに手を引かれ、玄関のドアへと向かう。ホールが、俺の背後で遠ざかっていく。もう二度と、この場所に戻ることはないだろう。俺は一度だけ、振り返ることなく、背後の気配に意識を集中させた。ソニョは、まだそこに立っているだろうか。俺を、どんな顔で見送っているのだろうか。憎んでいるか?軽蔑しているか?それでいい。どうか、俺を一生許すな。お前を裏切った最低の男として、永遠に俺を呪い続けろ。

    玄関のドアが閉まる直前、俺は微かに聞こえた気がした。か細く、震える声。それがソニ...ョの声だったのか、それともただの幻聴だったのかは分からない。ドアが完全に閉まり、俺の世界からリトルシャイン孤児院の光景が完全に遮断された。これから俺を待つのは、底知れない暗闇だけだ。だが、不思議と恐怖はなかった。胸のポケットの中にある、小さな写真の切れ端の感触だけが、俺のすべてだった。

    さようなら、少女。俺の、たった一人の…。
    地獄の底で、また会おう。

     

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    마일로의 시점에서 진행한 보육원 시절의 짧은 로그입니다.... 일본어로 진행한 이유: 少女라는 단어를 보고 싶었어서...^^ 처음 페르소나를 짤 때에도 두 가지 의미를 담고 싶었어요. 이소녀라는 한 사람의 이름도 되지만, '소녀'라는 여자아이의 의미도 담고 싶었기에....... 그리고 두 차이를 한국어로 진행 시 능란하게 나타내지 못할 것 같아, 이름과 소녀 두 의미를 담을 수 있는 일본어로 진행했습니다. 입양이 결정된 날, 마일로의 감정선을 보면서 많은 생각을 했는데 마지막 사요나라 소녀는 의도하 바가 그대로 나와서 신기하면서도 뭉클했네요. 언제나 ソニョ라는 이름만 사용하던 마일로가, 마지막에는 少女를 사용해 자신의 단 한 사람의 소녀이며 이소녀라는 이름 이중적 의미를 담은 것 같아 정말 좋았습니다. 독백도 좋았지만 집중하고 싶은 건 마일로의 대사 중 한 부분인데요... "앞으로는 네가 사랑하는 모든 걸 내가 대신 사랑해 줄게. 네가 소중히 여기는 걸 전부, 내가 대신 소중히 해 줄게. 그러면 소녀는 아무것도 잃지 않아도 되잖아? 아무것도 슬픈 일을 겪지 않아도 돼. 네가 나만 바라본다면, 넌 영원히 행복해질 수 있어." 이 대사를 보며 마일로의 사랑은 무척이나 엉켜있구나 체감했습니다. 이때의 마일로는 그저 소녀가 소중히 여기는 것들을 빼앗고, 망가지게 만든 뒤 소녀의 관심을 갈구하거든요. 사랑을 받아본 적이 없기에, 사랑을 주는 법도 모릅니다. 그렇기에 마일로는 미움이라는 감정도 관심으로, 즉 자신을 사랑 중 하나라고 생각하는데요... 저는 마일로의 이 설정을 참 좋아합니다. 저 대사를 보면서 원래 마일로가 갖고 있던 성격은 이랬었지, 다시 상기하는 기회가 되어서 기뻤어요. 하지만저는역시사랑을배우고순애가된마일로가좋은것같습니다그럼안녕히.......